パートナーとの関係性で傷ついたりモヤモヤしたり、嫌われるのが怖くてホンネを伝えづらいと思ったことはありませんか? NPO法人デートDV防止全国ネットワークで理事を務める高島菜芭さんは「誰もが対等で自分らしいリレーションシップを構築できる未来をつくる」というビジョンを掲げ、さまざまな取り組みを行って活動されています。
今回は”セックスレス”問題を持つ恋人同士は、どんなコミュニケーションをとることでセックスレスを解消することできるのか、はたまた解消する必要はないのか、などについて考えを教えていただきました。
セックスレスは問題?
恋人同士がセックスをするのが当たり前という風潮は、少しずつ薄れてきている現代。では、「セックスレス」を私たちはどう捉えたらいいのでしょうか。
お互いにセックスを重要視していないのであれば、それは何の問題もありません。そもそも性的欲求を感じないセクシャリティの方もいれば、別の愛情表現で十分だと感じるカップルもいることでしょう。
しかし、一方、もしくはお互いがセックスを重視している場合はどうでしょうか。
そもそもなぜ私たちはセックスをしたいのでしょうか。愛情表現の一つとして?性的欲求を満たすため?それとも生殖のため?または、義務感から?セックスを望む理由は人それぞれですが、場合によってはセックス以外の方法で自分のニーズを満たす選択肢も考えられます。
もし「恋人とセックスをする方法でしか自分のニーズを満たせない」と感じるのであれば、セックスレスを乗り越える方法を模索する必要が出てきます。しかし、セックスレスをただの問題として捉えるのではなく、2人の関係をより良くするためのスタート地点として考えることもできます。
セックスレスを起点に恋人とオープンに対話する
この記事では、性欲の仕組みを理解したうえで、パートナーとオープンにコミュニケーションをとる方法を模索していきます。
性欲のメカニズムを理解する
まずは、性欲がどのように働くのかを理解することが第一歩です。
性欲には「アクセル」と「ブレーキ」があります。この理論は、性科学の研究機関であるKinsey Instituteの性科学者ジョン・バスが提唱している「デュアルコントロールモデル」に基づいています。アクセルは性欲を引き起こす要因で、ブレーキは性欲を抑える要因です。ブレーキ要因が存在すること、アクセル要因が存在しないことの両方がセックスレスの原因になりえるため、両方を考慮する必要があります。以下にそれぞれの例をあげます。
- アクセル要因
- 言葉による愛情表現
- パートナーの匂い
- パートナーの才能や知性、コミュニケーション能力
- 普段と異なる場所や設定
- 相手が自分を欲していること
- パートナーに対する信頼感
- ブレーキ要因
- ストレスや疲れ
- パートナーへの不信感
- 自分の体型に対するコンプレックス
- セックスに対する義務感
- オーガズムに達することへの強迫観念
- セックス=汚いもの、恥ずかしいものという考え
ここで大切なのは、アクセルとブレーキが人それぞれ異なるという点です。
仕事のストレスがアクセルになる人もいれば、逆に性欲を抑制するブレーキになる人もいます。性欲のアクセルになりうる要素についての研究結果も分かれています。
リレーションシップの領域で著名な精神療法士Esther Perelは、長期的な関係において、新鮮さを感じることがアクセルの大事な要素になりうるため、パートナーと適度な距離を保つこと、目新しいプレイを試すことを提唱しています。適度な距離とは、相手と距離が近づきすぎると新鮮さを感じづらく、距離がある状態、例えば、ステージに立つパートナーを見ること、パートナーが第三者と話しているのを見ること等が魅力を感じやすくなる、ということです。
一方、夫婦関係の領域で著名な心理学者John M. Gottmanは、パートナーと、とにかく心理的に近くなることが大事だとしています。彼の100のカップルを対象にしたセックスレスのリサーチ結果によると、相手と深く対話し友情関係を保つこと、生活の中でセックスを優先することが重要とのことです。
自分やパートナーの性欲のアクセルとブレーキを理解し、どうしたらお互いにとって心地よい状態になるのかを考えることが、解決の第一歩になります。
オープンに対話をすることの大切さ
パートナーとの対話を通じて、お互いのアクセルとブレーキを共有することが次のステップです。性欲を感じやすくなる状況や、逆に抑えられてしまう要因を正直に話し合いましょう。
例えば、「私は疲れていると性欲が湧かなくなる」とか、「愛情表現をしてくれると、気持ちが高まる」といった具体的な情報を共有することで、パートナーも自分のニーズを理解しやすくなります。また、伝えるときには相手を責めるのではなく、自分の気持ちを素直に表現することで、相手もリラックスして話を聞いてくれるでしょう。
2人でのコミュニケーションが平行線になってしまう場合は、カップルカウンセリングを受けることを検討してみてもいいかもしれません。対面またはオンラインで、カップルで一緒にカウンセラーと話すという形式のカウンセリングです。専門家と一緒に自分たちの関係の問題を整理し、お互いの感情を深掘ることができるため、言語化が苦手なカップルに特におすすめです。(私も受けたことがあります!)
最終的に2人の妥協点が見つからない場合には、オープンリレーションシップという選択肢もあります。オープンリレーションシップとは、パートナー間で合意のうえで他の人との性的な関係を許容する関係性の形態です。合意を確認するという点で浮気とは違いますし、自分が満たせない相手のニーズを他の人に満たしてもらうということでポジティブに捉える人もいるようです。
日本ではまだ一般的ではないかもしれませんが、最近私のまわりではオープンリレーションシップを試しているカップルの話を聞きます。
セックスレスを話し合いのきっかけに
最後に、セックスレスそのものが必ずしも問題というわけではありません。価値観やライフスタイルの変化、あるいはお互いのニーズのずれが反映されていることもあります。大切なのは、セックスレスの状況を問題視するのではなく、オープンな対話を通じてお互いの理解を深め、健全な関係を築くことです。みなさんの対話がうまくいくことを願っています。
- 参考文献:Come as You Are: The Surprising New Science that Will Transform Your Sex Life, Emily Nagoski